昨日、NHKの渡辺恒雄氏へのインタビュー番組が一年の時を越えて、その第二弾? 後編?が放送されました。
前回もなかなか見応えがあって面白かったのですが、今回もやはり見応えがあって面白かったです。
政治の話とかも非常に興味深く、面白いものでしたが、今回はそこは割愛させていただきます。
今回書こうと思うのは、あの21世紀初頭にプロ野球ファンを激震させた1リーグ制移行騒動、いわゆる球界再編問題についてです。
そのことについて渡辺氏本人から直接話が聞けるということで、非常に興味深かったし、やはり案の定「悪役」ってわけでもなかったのかな、と思いました。
スポーツやったことない
渡辺氏が読売ジャイアンンツのオーナーに就任したはいいんですけど、なんと彼は子供の頃からスポーツをやったことがなかったと言います。
まぁそれも、この年代の人には、ひょっとしたらそんなに珍しいことではなかったかもしれません。
「いだてん」が大好きで毎週欠かさず観ていたのですが、それ観てわかったことは、日本におけるスポーツという概念はそれほど古いものではなかったということです。
そりゃま、そうなんですけどね。西洋社会のものだから。
日本が初めてオリンピックに参加した時、マラソンやっても何で走ってるのか、よく理解されなかったそうです。
それが、オリンピックへの参加などを通じて、徐々に徐々に理解されていったものだったんですね。
だから、大正生まれの渡辺氏が子供の頃からスポーツをやったことがない、というのは、あんまり珍しいことではなかったかもしれません。
ただ、そんな感じなので、オーナーをやろうってのに野球のことは全く知らない。
全く知らないもんだから、勉強するんです。
何を勉強したか、っていうと野球協定です。球界の憲法と言われる野球協定を徹底的に勉強したそうです。しょっ中協定を読んでいたみたいです。
この「球界の憲法」勉強した、ってのがさすがですよね。
やはり、法律、ルールを知ってると色々と有利だし、何かやるにしても話も早いし、アイデアも出てくるでしょうからね。
それに、プロ野球球団のオーナーだから実際にプレーするわけじゃない。球団経営だから、「憲法」を知っておく方が便利だろうし、そもそも球団経営なんてできっこない。
ところが、当時のオーナーはこの野球協定に疎い人が多かったそうです。だから、どうしても渡辺氏には負けてしまう。こうして、あっという間にイニシアチブを取ったそうです。
それにしても、新しいことを始めるには先ず徹底した勉強、という、この努力はすごいですよね。さすがに大新聞のトップに立つ人は違う。
しかし、この「スポーツをやったことがない」という点がネックなってしまったんだと思います。
スポーツ文化を知らない
で、そんな渡辺氏。打ち出したのは1リーグ制の導入。2リーグ制のものを一つにするわけですから、球界再編です。
当時はなんだかんだで巨人1強時代。純粋に儲けを考えれば1リーグ制にして、巨人のテレビ放映料を全球団に行き渡るようにする、というのは正しいのかもしれません。
しかし、いかんせん「スポーツを知らない」渡辺氏。
それが選手を知らない、ファンを知らない、ということに繋がり、結果大反発を食らってしまいました。
あの時の空気感知ってる人ならわかると思うけど、日本中の憎しみを一手に引き受けていたくらいのヒール感でしたもんね。
番組の中で、渡辺氏に近しい色んな人が証言していたのですが、その中で、渡辺さんの中ではオーナー、社長、幹部と来て、選手というのは末端で、言う通りに動くもの、という考えだったのではないか、というのがありました。
いわゆる会社組織ですね。その延長線上だと思っていた節があったらしいんです。
多分、会上意下達の会社組織しか知らない渡辺氏は、スポーツ界の事情を全く肌感覚では理解できなかったのかもしれません。
言ってみれば、スポーツ文化を知らなかったんですね。
スポーツ界は、あくまで選手中心、という風に世間は見ているはずです。
また、それを取り巻くファンがその次、なのでしょう。
なぜなら、金を払い、球場に足を運ぶのはファンだから。
選手とファンの関係性こそが第一義である。そこを全く無視した、というよりはその関係性を、多分未だに理解できていないのかもしれません。
球界全体の利益を考えていた
ただ、渡辺氏としては、全体の利益を考えた末の結論だったのでしょう。
あまつさえ、巨人の利益は減るものの全体が良くなればいいじゃないか、と言ってました。
しかも、1リーグ制にした後は球団を増やす構想もあったそうだ。当時、球界縮小を狙ってる、なんて噂も聞いたことがあるのですが、真逆のことを考えていたんですねー。
また、最初10球団、その後増やす、というこのスタイル。おそらく渡辺氏の頭の中にはJリーグがあったかもしれないですね。まぁ、それは邪推ですが。
たかが選手。中には立派な選手もいるけどね
また、「たかが選手」発言は、完全に切り取られたセリフだったようです。これは知らなかったー。
なんでも、「たかが選手が云々」と言ったすぐその後に「中には立派な選手もいるけど」とフォローしていたんです。
都合の良いように切り取られたんですね。まさかマスコミに身を置く自分が、同業者にやられるとは思わなかったかもしれませんね。
渡辺恒雄氏らしからぬ軽率な発言だったかもしれません。あれで風向きが決まってしまいましたからね。
ちなみに、前回この番組を観た時、菊池雄星のサインボールが部屋の棚に飾られていました。しかもその感じが、どことなく大事そうだったのを覚えています。
「たかが選手」と考える人が、野球選手のサインボールを自分の部屋に飾ることはしないと思いますけどね。
ガラパゴスビジネスモデル
また、その後のパ・リーグの隆盛をみると、渡辺氏が念頭に置いていたビジネスモデルは、そもそも古いものだったのかなー、とも思います。
渡辺氏が(多分)思い描いていたのは、テレビ放映料を中心としたビジネスモデルだったと思います。
それに対し、現在のパ・リーグは地元密着型。乱暴に言っちゃうと、地元民に金を落とさせる方式ですw
また、パ・リーグTVなど、インターネットを上手く活用している印象です。
テレビは今やすっかりオワコンとなってしまい、斜陽感は否めません。
テレビを中心としたビジネスモデルでは、渡辺氏の構想が実現していたとしても、あまり期待の持てるものではなかったかもしれません。
例えていうなら、1リーグ構想はガラケーだったのかもしれません。そのカテゴリの中では良いものだったけど、スマホみたいな次世代のモデルに変わった時、生き残れないという。
…ん? ちょっと待ってください。そう考えると「ガラパゴス携帯」ってなんかおかしくないですか? ガラケーって、ほぼ絶滅状態ですが、ガラパゴス島に生息する動物たちは絶滅していません。独自の進化をして生き残ってます。
…ガラパゴス、喩え違くね?
まぁ、それはいいとして、ふた昔くらい前なら1リーグ制というのも、ひょっとしたら上手くいっていたかもしれません。ですが、時代は確実に変わった今、やはり1リーグ制で巨人戦の視聴率を分け合う、というやり方では、プロ野球は今よりも衰退していたでしょう。
スポーツを知らない渡辺氏にとっては、球団オーナーというのは、あまり不得手な役回りだったのかもしれません。
また、新聞、政治という、良くも悪くも広くて狭い世界にいた、というのあったと思います。
印象変わった
悪口書こうというつもりはさらさらなかったんだけど、ちょっと苦言を呈したみたいな文章になってしまいましたが(^^;;
本当は書きたいことは真逆だったんですけどね。随分あの当時イメージしていたのと違うなぁ、ということ。
番組自体を通じても、前回と今回(まぁ、全部観たわけではないんですけど)で、渡辺恒雄氏のイメージは、180度とは言わないまでも、かなり変わりました。
彼のインタビューに、なるほど、と思うこともしばしばあったし、誤解を生むような報道をされていたことも多々あったように思います。
もちろん、インタビュー番組ですから、割とヤバめな面は極力見せないようにしているんだろうけど、基本的な考え方やスタンスというものは垣間見ることができたように思います。
また、元朝日新聞の記者のコラムを読んだことがあったんですけど、その記者の方が渡辺氏にインタビューをした時、非常に丁寧に対応してくれて、質問にもひとつひとつ丁寧に答えてくれたそうです。
そしてインタビューも終わった別れ際、「良い記事になるといいね」と一言。
朝日と言えば、読売とは対極にある新聞、というイメージがあると思います。その、言ってみればライバル社の記事に「良い記事になるといいね」と、一言気遣うことができるというのは、懐が広いというか、まぁ余裕もあるんでしょうけど、さすがだな、と思います。
やっぱ、大新聞の社長にまで上り詰める人は違うなー、と思った次第です。